由良の門にゆたかに浪もお降りも 仙田洋子「はばたき(2019)角川書店」
由良の門とは丹後国(現在の京都府宮津市)を流れる由良川の河口。潮の流れが激しいところとして知られています。百人一首に「由良の門を渡る舟人かぢをたえゆくへも知らぬ恋の道かな 曽禰好忠」という歌があるので、ご存知の方も多いでしょう。こちらの歌の大意は「由良川の河口の荒波をこぎ渡る船頭が櫂を失くして流されてゆくように、私の恋の行く末もどうなるかわからないことだよ」。掲句はこの歌を思い出させます。「歌で有名な由良川の河口に立ってみれば、波も豊か。正月の雨も豊かに降ることだよ」という意味になるでしょうか。
歳時記によれば「お降り」とは元日に降る雨。または三が日の間に降る雨を言います。お降りがあると富正月と言って豊穣の前兆とされたとか。豊穣を告げる雨に加えて、歌枕として名高い由良の門の波も豊か。めでたさが二倍になった一句です。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」