餅花に集まるごとく相席す 津川絵理子「夜の水平線(2020)ふらんす堂」
餅花とは柳などの枝に、小さく丸めた紅白の餅をつけて神棚の近くに飾るもの。近年では、家に飾る方は少ないでしょうが、商店街や和食の店の飾りとしてよく目にします。掲句、相席ですから和食店ではないでしょうか。正月で混み合っているため、相席になった。その席のそばにはちょうど餅花が飾られています。それを眺めていて、自分たちもまるで餅花のように並んでいるなあ、と可笑しくなったのかもしれません。ちょっとした滑稽味がめでたさを増幅している楽しい句です。
そう言えば、正月のテレビにはこの時期にしか目にしない芸人さんたちが登場します。太神楽(だいかぐら)もその一つ。傘の上に鞠や枡を回す曲芸です。めでたい気分の中には、荘厳さや晴れ晴れしさだけでなく、軽い可笑しみが含まれているのかもしれません。そんなことに気付かせてくれた一句です。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」