稲刈つて顎を最後に立ち上がる 西山ゆりこ 体の部分を詠み込むことで、肉体感覚を一句にもたらすことが出来ます。掲句では顎。 この句は稲刈りの後の動作を精密に写生しています。まず、腰をかがめて稲を刈っています。よっこらしょと立ち上がる。まず膝が伸びます。腰を伸ばします。背中が真っ直ぐになり、顔が空を向きます。そのとき顎が...
俳句の作り方
俳句の作り方の記事一覧
朝寒やフレーク浸る乳の色 高柳克弘 俳句は調べが重要。音韻が重視される所以です。とはいえ、わざとらしいほど同じ音が続くと作者の意図が透けてしまいます。ドヤ顔が見えてしまう訳ですよね。抑制を効かせながらさりげなく用いるのがポイント。ではどのくらいが適当なのか。掲句は、さすが程よい匙加減だなと感心してしまいます。 朝寒は...
会をしに出てゆく秋の体たち 鴇田智哉 日本語としては意味がつながっていますし、難しい言葉が使われている訳でもありません。なのにわからない。何の会だろう。どこから出てゆくのだろう。秋の体って何だろう。わからないことだらけです。 作者は2021年8月8日放送のNHK俳句で「寝覚めで頭が不確定なときにメモを取り、それをもとに...
夏潮へ碇のごとくこころ投ぐ 堀本裕樹 この作者の句には、あの遠い日々の思い出が詰まっているように感じられます。ぎらぎら光る浜辺にある蜃気楼のようなひととき。時に青春とも呼ばれる特別な時代のことです。 掲句に登場する碇は石のおもり。綱をつけて水底に沈め、舟を係留します。今、力強い夏の潮が舟を押し流そうとしています。その...
このへんの会社の人が泥鰌鍋 岸本尚毅 俳句の描写は精密な方がいい。私は長い間そう思ってきました。しかし、わざとゆったり作られた達人たちの名句に触れ、そんな高等技術を使いこなしてみたいと思うようにもなりました。例えば掲句。このへん、って何処よ?って突っ込みたくなりません?でもこの曖昧さが、自分の町内のことを話すような親...
籐椅子に深く座れば見ゆるもの 星野高士 籐椅子は籐製の夏用の椅子。最近は珍しくなりましたが、昔は避暑地のホテルや別荘でよく見かけました。クラシックな家具のひとつです。大抵は庭や海に面していて、深く座れば、ゆったりと寛いだ気分になります。聞こえてくるのは囀りでしょうか。それとも潮騒でしょうか。確認したわけではありません...
平泉に入った芭蕉一行は中尊寺を訪ねます。義経を保護した藤原秀衡の館があった場所で 清衡、基衡、秀衡、藤原三代の像が飾られた経堂と、三代の棺を安置した光堂があります。この堂を開帳してもらえることになった一行。案内された光堂の内部は手入れする人もなく、無惨に朽ち果てていました。極楽浄土を再現したと言われる金銀瑠璃などの七宝...
田一枚植ゑて立ち去る柳かな 松尾芭蕉 「奥の細道」に登場する一句。季語は田植えですが、柳が別れに彩を添えています。しかし、柳でなくても他の木でもかまわないのでは。そう思ったあなた、いい勘をしています。何か深い事情がありそうですよね。 漂泊の歌人として知られる西行の歌に、「道のべに清水流るゝ柳かげしばしとてこそ立ちど...
事実は一つですが、真実はいくつもあると言われます。事実とはファクトのこと。犯罪捜査でいえば物証やアリバイに当たる言葉で、客観的で揺るぎのないものと考えられています。ところが真実はいくつものある。その物証を解釈する上で脚色や恣意、主観が許容されるのです。源氏物語と並んで日本文学を代表する古典と考えられている奥の細道は、多...
梅雨晴や文字より落つるチョークの粉 池田瑠奈 俳句は短いので、言いたいことの全部を述べることはできません。そこで登場するのが暗示のテクニック。別の物を提示して、読者に気づかせます。掲句では黒板とも授業とも言わないで、教室の景であることが示されます。鍵となるのはチョークという言葉。 おそらく板書しているのでしょう。「文...
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