きせいし 帰省子【ワンランク上の俳句百科 新ハイクロペディア/蜂谷一人】




帰省子の一夜は灯し通しなり  今瀬剛一

故郷を離れている学生や会社員が長期の休みを利用して、郷里に帰るのが帰省。「俳句では夏休みの帰省をさすことから夏の季語とするが、実際に帰省がピークを迎えるのは八月半ばの月遅れの盆前後で秋」と歳時記に。夏の季語なのに、実際は秋の出来事だと。ちょっとややこしいですね。

さて掲句。故郷の生活はきっと夜が早いのでしょう。明日も農作業で朝が早いから就寝も早い。家々の灯が消えます。街灯もコンビニもないので10時を過ぎるともう真っ暗。ところが、あの一軒だけは煌々と灯っていると言うのです。帰省した人が夜遅くまで起きているのでしょう。それが都会の生活習慣だから。ゲームに夢中なのか、ユーチューブにはまっているのか。決して監視しているわけではありませんが、田んぼの向こうに窓の灯が嫌でも見えてしまうのです。夜中にトイレに起きてもまだ灯っている。夜明けにも灯がついたまま。あれ、あの家のあの子は徹夜したのかな、そんな感じでしょうか。実感があります。窓の灯が鮮やかに目に浮かびます。

今、あの子と書きましたが 帰省子は子どもに限りません。藤村の「千曲川旅情の歌」に出てくる「雲白く遊子悲しむ」、あの遊子と同じで大人にも使います。帰省子は帰省した人。遊子は旅の人。でも、掲句はきっと若者のことでしょう。何と言っても夜通しゲームですからね。知ったかぶりで書きましたが、私も最近まで子どものことだと思っていました。片山由美子さんに教えていただいたので、書き添えておきます。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

 

 

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