蓬莱やプラスチックは腐らない 池田澄子「此処(2020)朔出版」
蓬莱とは、中国の伝説に登場する仙人が住む不老不死の地のこと。これをかたどった新年の飾りも同じ名で呼ばれます。歳時記によれば「三方の上に紙、羊歯(しだ)、昆布、ゆずりはを敷き、その上に米、橙(だいだい)、蜜柑、柚子、橘(たちばな)、榧(かや)、かちぐり、野老(ところ)、穂俵、海老、梅干などを盛って飾ったもの」だとか。まさに、めでたいもの尽くし。これでもかというくらいのオンパレードです。それなのに掲句はどうでしょう。こともあろうにプラスチックとの取り合わせ。何故なんだろう、と暫く考えて納得しました。蓬莱は不老不死の象徴。そういえば、プラスチックも不老不死ではないか。この取り合わせを見ても、文明に対する作者の透徹した視線を感じます。不老不死って、そんな楽しいことではないんだな、滅びないものは美しくないんだな、そんなことまで気づかせてくれる一句です。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」