心にも破魔矢の鈴を鳴らしゆく 岩岡中正「文事(2021)朔出版」
破魔矢は新年の季語。正月の厄除けの縁起物として、神社で破魔矢を受けます。そういえば、鈴がついていました。鈴は神社の拝殿で振り鳴らしたり、巫女が手にもって舞ったりもします。その澄んだ音で魔を払う役割を持っているのです。掲句で目を引くのは「心にも」。手に持っているのは実際の破魔矢ですが、心にも破魔矢を抱いているのです。かたちだけでなく、心も大切に。俳人らしい奥ゆかしさです。
さて、この句で思い出した歌があります。
けふもまた心の鉦をうち鳴らしうち鳴らしつつあくがれてゆく 若山牧水
こちらは鈴ではなくて、鉦。詩歌とは心の鈴や鉦を鳴らすもの。自らを鼓舞し、あたりを清めてゆくものなのでしょう。掲句は、和歌の格調を湛えながら、新年らしいすがすがしい気持ちにさせてくれる一句なのです。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(新年)