恋をはる葱汁を小鍋にうつす 生駒大祐「水界園丁(2019)港の人」 沢山作った葱汁を小鍋に移して温める。小鍋はきっと一人用の鍋。今日からは一人の食事なのです。日常のなんでもない景色でありながら心惹かれます。恋が終わっても人は生きなければなりません。どんなに激しい恋でも終わってしまえば、立ち上がらなくてはならない。立ち...
俳句の作り方
俳句の作り方の記事一覧
葱ぶんぶん回せば猫の立ち止まる 野口る理「しやりり(2013)ふらんす堂」 葱の使い方としてはかなり異色です。葱と言えば、切る、食べる、(汁に)浮かべる。育てるというのもあるかも知れませんが「ぶんぶん回す」とは。回すには細くて長いものが最適。となれば他にも、蕗、牛蒡、山芋、などが思い浮かびます。しかし葱にはかないませ...
色も形も任され母の日記買う 北山順「ふとノイズ(2021)現代俳協会」 季語は日記買ふ。一年間使い、残り少なくなった日記を新しいものに買いかえること。「新年を迎える用意の一つ」と歳時記に記されています。 恐らく、高齢で外出のままならなくなった母上に頼まれたのでしょう。「色も形も何でもいいから日記帳を買って来て」と。何...
年の暮同時通訳途切れなく 田中清司「草の花(2021)ふらんす堂」 年の暮は一年の終わり。「街は歳末売出し賑わい、家庭では新年を迎える用意に忙しい。すべてが慌ただしく、活気を帯びてくる」と歳時記に記されています。同時通訳は、国際会議などでなくてはならない仕事。専門用語を駆使して行われる討論を、見事に通訳してくれます。...
スタジオのデジタル時計年詰まる 寺井谷子「母の家(2006)角川書店」 「年詰まる」は一年の終わり。「街は大売り出しで賑わい、家庭では新年を迎える用意に忙しい。全てが慌ただしく、活気を帯びてくる」と歳時記に記されています。 この句は「NHK俳壇収録 十二句」と前書きのついた中の一句。NHK俳壇は1994年からの放送。...
鶴眠る頃か蠟燭より泪 鳥居真里子「月の茗荷(2008)角川書店」 「鶴は容姿の美しさもあり、古来瑞鳥とされてきた」と歳時記に。民話にも登場し、古くから人々に親しまれてきました。代表的なエピソードは鶴女房。翁が罠にかかった鶴を助け、その鶴が人間の女性に姿を変えて翁のもとを訪れます。部屋を締め切って美しい布を織り上げる女...
受話器冷たしピザの生地うすくせよ 栄猿丸「点滅(2013)ふらんす堂」 冷たしは、皮膚に直接感じる寒さのこと。ピザの注文の電話の受話器が、ぞくっとするほど冷たかったというのです。ご存知でしょうが、ピザ生地にはいくつかの種類があり、注文の際に選ばなくてはなりません。例えばピザーラなら、イタリアン、ハンドトス、スーパーク...
焚火の父振り向きざまに束子放る 今井聖「九月の明るい坂(2020)朔出版」 一体どういう状況なのか、さっぱりわかりません。なぜ束子を放るのか。なぜ振り向きざまなのか。焚火である必然性は?わからないことばかりです。しかし、作りものではない迫力があります。こんなことが、嘗てあったのだろうと思わせられるのです。反則すれすれ、...
台本になく咳き込んでをりにけり 夏井いつき「伊月集 龍(2015復刊)朝日出版社」 俳句を始めた頃から30代までの句を集めた句集の復刻版です。早くからテレビで活躍してきた作者。今でこそ台本なしのフリートークの名手ですが、かつては緊張もしたのでしょう。「台本になく咳き込む」とは、本物の咳ではなく時間稼ぎの咳のことだと思...
とぐろ巻く血の腸詰(ブーダン・ノワール)聖夜待つ 中原道夫「一夜劇(2016)フランス堂」 二〇一五年のパリ同時多発テロを記録した句の一つ。その時、劇場ではイーグルス・オブ・デス・メタルのコンサートが行われていました。三人組の犯人は観客に向けて銃を乱射した後、観客を人質にして立てこもります。翌日未明に特殊部隊が突入し...
週間ランキング
まだデータがありません。
最近の投稿