今日あたり出てゐるはずの社会鍋 片山由美子「飛英(2019)角川書店」 社会鍋は「年の暮に、キリスト教の一派の救世軍が行う募金運動。街角に鍋を吊し、その中に集まった献金で慈善事業を行う」こと。東京では神保町に救世軍の本部があり、その建物の前で喇叭を吹きながら募金を募ります。年末の風物詩ではありますが、カレンダーに...
俳句の作り方
俳句の作り方の記事一覧
霜の夜の起して結ぶ死者の帯 井上弘美「汀(2008)角川SSコミュニケーションズ」 同じ句集に「母の死のととのつてゆく夜の雪」という句があります。どちらも母上の死を見つめた句なのでしょう。納棺前の身支度の場面でしょうか。白い装束を着せられる母上。帯を結ぶときには、体を起こさなければなりません。亡くなったひとの体を起こす...
地吹雪の熄みたる銀河山河かな 黒田杏子「銀河山河(2013)角川書店」 句集のタイトルとなった一句。地吹雪とは「雪が降る時に激しい風を伴うもの。降り積もった雪が風に吹き上げられるもの」と歳時記に。激しかった吹雪がやんだあと姿を現したのは星空。そして夜目にも白い山々。銀河山河とは作者の造語でしょうが、雄大で透徹した景色...
ふりかへるたびにしぐれてきたりけり 岩岡中正「文事(2021)朔出版」 すべてひらがなで記された一句。後ろから時雨が迫っているのでしょう。道を急ぐ作者は、何度も振り返って時雨の位置を確かめています。時雨とは冬の初めの雨。晴れていても急に雲が生じて雨になり、すぐに止んでまた降り始める。そんな雨のことです。もともと京都で...
しぐるるや海苔弁うすく醤油味 上田信治「リボン(2017)邑書林」 季語は「時雨る」。時雨という名詞の動詞形です。時雨は冬の雨。冬の初め、晴れていても急に降り出してすぐ止み、止んだかと思うとまた降り出す。そんな雨のことです。もともとは京都の山沿いで使われた言葉で「北山時雨」など、地名をつけて呼ばれることもあります。...
午後からはがくんと寒し谷戸住ひ 星野椿「早春(2018)玉藻社」 谷戸を広辞苑で引くと「(関東地方で)低湿地。特に鎌倉辺に地名として多く現存」と記されています。鎌倉は12世紀に源頼朝が幕府を開いたところ。東西と北の三方を山に囲まれ、南には相模湾が広がる天然の要害です。鶴岡八幡宮のあたりを中心として、周囲の山々の谷間に...
むらぎもの心を統ぶる笹子かな 堀本裕樹「熊野曼荼羅(2012)文學の森」 笹子は冬の鶯。「鶯は、秋の終わりに山から人里に降りてくる。冬の間は茂みや笹原などにいることから藪鶯、あるいは笹子と呼ぶ。笹子は幼鳥の意ではない」と歳時記に記されています。厳しい冬を生きる鳥です。むらぎもは「心」に掛かる枕詞。群肝と書き、昔 心...
小春日や尾生え脚生え龜てふ字 津川絵理子「夜の水平線(2020)ふらんす堂」 小春は旧暦十月の異称。小春日は立冬を過ぎてから春のように暖かくよく晴れた日のこと。のんびりとした気分のあふれる季語なので、龜にぴったり。この字は亀の旧字。調べてみると象形文字なのだそうです。つまり、動物の亀の形を模している。一番上の「々」み...
炬燵より離れてゐたり反抗期 西山ゆりこ「ゴールデンウィーク(2017)朔出版」 炬燵はご存知ですよね。日本の家から襖がなくなり、障子が姿を消そうとしています。マンションには和室がなくなり、代わりにアルミサッシが登場しました。そんな中で炬燵はしぶとく、テレビの前に居場所を確保し続けています。炬燵板の上にはテレビのリモ...
氷の下の川が黒い せきしろ「蕎麦湯が来ない(2020)マガジンハウス」 「蕎麦湯が来ない」は、せきしろさんと又吉直樹さんの共著。自由律句と文章が散りばめられています。自由律ですから、季語がなくてもOK。定型を守らなくてもOK。なのですが、小稿はキゴサーチ。無理矢理季語らしいものを見つけて論評してしまおうという野暮な試...
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