としつまる「年詰まる(冬)時候」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




スタジオのデジタル時計年詰まる  寺井谷子「母の家(2006)角川書店」

「年詰まる」は一年の終わり。「街は大売り出しで賑わい、家庭では新年を迎える用意に忙しい。全てが慌ただしく、活気を帯びてくる」と歳時記に記されています。

この句は「NHK俳壇収録 十二句」と前書きのついた中の一句。NHK俳壇は1994年からの放送。2005年にNHK俳句と名前が変わって現在に至ります。NHK俳壇の最後の3年間、作者は選者をつとめました。この句には、テレビ局の慌しい収録風景が記録されています。実は、この番組は編集をしないで生放送のように収録されます。スタジオの時計は、残時間と経過時間に切り替えることができますが、掲句の場合はおそらく残時間。当時は30分番組でしたから、初めに30:00と表示されており、その数字が秒刻みで減っていって00:00になったらお終い。経験した方ならおわかりでしょうが、やり直しがきかないので出演者の緊張は相当なものです。その緊迫感が「年詰まる」という季語にぴったりだと思いました。

この句の後には「ピンマイク外す聖樹の傍に」などの句が続きますから、クリスマスを前にした時期の収録だったのでしょう。年の瀬でそうでなくても忙しいのに、TV収録で何倍も多忙な作者。スタジオには窓がなく、空をゆく雲も、風になびく花も見えません。厚い金属の扉が季節を締め出しているスタジオで、俳句を詠むのは至難の技のはず。そんな中で作られた掲句は、現場の臨場感を余すところなく伝えています。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(冬)

 






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