つめたし「冷たし(冬)時候」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




受話器冷たしピザの生地うすくせよ  栄猿丸「点滅(2013)ふらんす堂」

冷たしは、皮膚に直接感じる寒さのこと。ピザの注文の電話の受話器が、ぞくっとするほど冷たかったというのです。ご存知でしょうが、ピザ生地にはいくつかの種類があり、注文の際に選ばなくてはなりません。例えばピザーラなら、イタリアン、ハンドトス、スーパークリスピーの三種類。イタリアンはふんわり柔らか。ハンドトスはみみまでふっくら。スーパークリスピーは、サクッとした軽い食感のフラットタイプの薄型生地。この句の生地はスーパークリスピーかもしれません。ちなみにドミノピザなら七種類も生地があって、ウルトラクリスピークラストが一番薄そう。そんなにあると注文するのも大変です。

さて掲句の内容を深読みしてみることにします。冬の夜中に急にお腹が空いて、ピザの出前を注文した。おそらくひとりの夜でしょう。受話器ですから、スマホではなく固定電話。大きな受話器がいつもより冷たく感じられます。電話に出たのはロボットのような店員でした。トッピングだけでなく、いちいち生地の指定までしなければなりません。「うすくせよ」という命令形が、ちょっとイラッとした心理を伺わせます。薄いのはピザ生地ですが、人間関係の希薄さも思わせるのです。

従来の俳句では詠まれなかったピザの注文という場面。都会の孤独が濃厚に感じられる一句です。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(冬)

 






おすすめの記事