色も形も任され母の日記買う 北山順「ふとノイズ（２０２１）現代俳協会」
季語は日記買ふ。一年間使い、残り少なくなった日記を新しいものに買いかえること。「新年を迎える用意の一つ」と歳時記に記されています。
恐らく、高齢で外出のままならなくなった母上に頼まれたのでしょう。「色も形も何でもいいから日記帳を買って来て」と。何でもいいから、というのが一番困りますよね。作者は男性。女性の好みは分かりませんし、母上とは年代も違います。女性だから花模様？いやいや、母の歳では可愛いすぎるよな。でも無地は味気ないし。紫が好きだったけれど、気持が沈みそう。もっと明るい色がいいか。いっそピンクは？いや、そういう性格じゃないだろう。千々に想いが乱れてゆきます。
長年日記をつけてきた母上なら、性格は几帳面。何事もきちんきちんとしていて、気に入ったものしか使わないかも知れません。となれば、なおさら悩みが深くなる。長寿社会ならではの一句です。「日記買う」という季語で、親子関係の難しさを詠んだ句は少ないと思いますが、見事に成功しています。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト：http://miruhaiku.com/top.html
