葱ぶんぶん回せば猫の立ち止まる 野口る理「しやりり(2013)ふらんす堂」
葱の使い方としてはかなり異色です。葱と言えば、切る、食べる、(汁に)浮かべる。育てるというのもあるかも知れませんが「ぶんぶん回す」とは。回すには細くて長いものが最適。となれば他にも、蕗、牛蒡、山芋、などが思い浮かびます。しかし葱にはかないません。ある程度のしなやかさが必要だからです。
しなやかでないと「回す」ことはできても「ぶんぶん回す」のは難しい。葱の特性を活かし、利用法に新しい一ページを開いた句なのではないでしょうか(笑)
では何故ぶんぶん回すのか。食べものを粗末に扱うことは、普通しませんよね。となれば何か理由があったのでしょう。遊び?うーん、違うような気がする。まじない?いや、それはないでしょう。怒りに任せて?それはあるかも知れません。何かむしゃくしゃすることがあって、葱に八つ当たりした。手近にあったから。形状が手頃だったから。猫が立ち止まったのは、異様な光景と刺激臭にたじろいだだけでなく、感情の爆発に驚いたから。
このあと無事に収まったのかどうか、気になるところです。でも葱ですからね。葱を振り回しても惨事には至りません。そこでもうひとつ葱の属性に気づきました。平和な日常です。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(冬)