いつ「凍つ(冬)時候」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




蠟製のパスタ立ち昇りフォーク宙に凍つ  関悦史「六十億本の回転する曲がつた棒(2011)邑書林」

食堂の店先で見かけるアレを詠んだ句です。フォークがナポリタン・スパゲッティを巻き取って宙に浮かんでいる。手を触れていないのにフォークが浮かんでいるのが不思議で、子どもの頃見入ったものでした。実は皿の上にワイヤーでフォークを固定し、そこにスパゲッティや具材を巻き付けて作るのだそうです。

食品サンプルの定番とされる商品ですが、それまで俳句で詠まれることはありませんでした。掲句は食品サンプルを詠むという大胆さに加え、「凍つ」という季語の斡旋の確かさが際立ちます。凍つは寒気のため物が凍ること、また、凍るように感じること。まさにフォークが凍っているようです。

こうしたサンプルが置かれているのは、大抵小さな食堂。ちょっと古臭いイメージで、ウインドウに埃が積もっていたりします。はじめはモダンだったのでしょうが、時の流れに抗えません。サンプルが古ぼけているだけなく、店も、そして店の主人もすでに過去に属しているのです。「凍つ」という季語のために一層寒々しい印象を与える掲句。私は都会の片隅で忘れられようとしているものたちへの、惜別の一句と読んでみたいと思います。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(冬)

 






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