しらうお「白魚(春)動物」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




白魚の汽水を恋うて囚はるる  益岡茱萸「汽水(2015)ふらんす堂」

白魚はサケ目の魚。辞書には「全長10センチ。体形は細長く無色半透明。食用にして美味。春先河口を遡って産卵する。サハリンから日本、朝鮮半島にかけての沿岸・汽水湖に分布」とあります。「汽水という言葉を覚えたのは、多分子どもの頃だったと思う。淡水と海水が交じりあう場所に、なぜか神秘的なものを感じ魚の王国の国境を思い浮かべた」と作者は後書きに記しました。きっと早熟な少女だったのでしょう。

魚の王国の国境は、壁で区切られているのではなく、ただ真水と塩水の混じり合う濃度によって決められている。白魚たちは海へも川へも自由に行けるはずなのに、自らの意志で狭い水域に生きることを選んだ、と言うのです。

自ら囚われの道を選んだという見方が新鮮。まるで恋のようだと思いました。愛するものの近くにいたい、ただそれだけのために自由を犠牲にするのが恋。白魚の句でありながら、人間の世界の激情を思わせるレトリックが冴えています。恋、囚、という二つの文字が読む人に忘れ得ない印象を残す、こんな白魚の句がこれまであったでしょうか。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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