はな・花【超初心者向け俳句百科ハイクロペディア/蜂谷一人】




古今和歌集の「久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ」に登場する花とは桜のこと。「こんなのどかな春の日に、落ち着かず桜が散り続けているよ」という歌意。和歌の世界では、花といえば桜をさしました。和歌から発展した俳句でも同じように、ただ花と言えば桜をさすものとされています。

大変華やかな美しさをまとった季語ですが、こうした季語を詠むときに大事なことは、華やかさや美しさを詠まないということです。季語そのものが華やかなのですから、それを説明する必要はありません。例えば芭蕉はこんな風に詠んでいます。

花の雲鐘は上野か浅草か   芭蕉

花の雲とは桜が爛漫と咲いて雲がたなびくように見るさま。決して空の雲ではありませんのでご注意ください。ここでは花の美しさには触れず、遠くから聞こえてくる鐘の音を取り合わせています。上野、浅草という歴史を感じさせる地名も、空間の広さとともに昔ながらの花の美しさを引きたてています。

花の美しさは視覚で感じるもの。ならば視覚以外の要素を加えることで一句が立体的になる筈。この句の場合は鐘の音という聴覚を取り入れました。

皆さんも、聴覚、触覚、味覚、嗅覚など視覚以外の要素を取り入れて一句詠んでみてはいかがでしょうか。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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