葉鶏頭喉を削つてうたふ歌 成田一子「トマトの花(2021)朔出版」
葉鶏頭は熱帯アジア原産のヒユ科の一年草。葉の形が鶏頭に似ていることから、そう呼ばれます。美しいのですが鋭い葉が刃物のようでもあり、不気味な感じを与える植物。喉を削ってうたふ歌」という措辞にぴったり似合っています。2010年に「第三回芝不器男俳句新人賞 大石悦子賞」を受賞した作者。実力を評価されながらも、最近まで俳句の世界を「怖い」と思っていたそうです。
実は、作者はヘヴィメタバンドのヴォーカルという珍しい経歴の持ち主。なぜその人が句集を出すことになったのか。経緯を、句集の栞に辻桃子さんが記しています。
それによると作者の父は俳人の菅原鬨也さん。「滝」という結社を主宰していました。あるとき、親友の桃子さんに後継者について相談します。「でもよぉ、一子はヘヴィメタルとかなんとかっていう歌で舞台を作る方がずっと魅力的だって言うのよぉ」「そりゃあそうでしょうね。(中略)あれと俳句じゃあねぇ、インパクトが違いすぎだわ」それでも桃子さんは、作者に後を継ぐよう説得したとのこと。しかし不調に終わってしまったのです。
年が明けて二月四日、春立つ日に、鬨也さんは逝ってしまいます。葬儀に飛んでいった桃子さんは「どうか会員のみな様で若い一子さんを主宰として支えていってください」と噴き上げるように訴えます。席上のみなは静かに頷き、成田一子主宰が決定。
人生とは誠に不思議なもの。俳句の家に生まれながら家業に背を向けてきた作者が、遂に父のあとを継ぐ。青春をロックのうねりの中で過ごしてきた私は「それこそロックだぜ」とひとり呟いてみるのです。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)