むしのね「虫の音(秋)動物」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




虫の音や私も入れて私たち  野口る理「しやりり(2013)ふらんす堂」

虫は秋鳴く虫の総称。「虫の音色にはそれぞれ風情があり、鳴いている所・時・数によって趣も違う。その声を聞くと秋の寂しさが身に迫って感じられる」と歳時記に記されています。では、あなたに質問です。この句の虫は何匹いるでしょう?

総称ですから、何種類かの虫が思い思いに鳴いている様を私は想像しました。英語で言えば集合名詞です。同じ種類の人や物が集まり、一つの集合体を形成する名詞のことです。代表的な例は、Family,Team,Peopleなど。

ははん。どうやらキイワードはファミリーのようです。掲句の「私も入れて私たち」とは素敵な措辞。作者の家族のことでしょうか。「私も入れて」ですから、私が新しく加わった家族。結婚などのことかもしれません。

一般に日本語は、単数と複数をあまり区別しません。虫と言われた時に一匹なのか、二匹なのか、沢山なのか、文面から区別できないことが多いのです。掲句の場合は沢山と読んだ方が断然華やかになります。虫も沢山。私たちも大勢。作者の家族の賑わいも感じられるようになるのです。

ちなみに、芭蕉の名句「古池や蛙飛びこむ水の音」の蛙も、歳時記では蛙の総称。集合名詞と考えれば、ぽちゃんぽちゃんと、水音が続いていると鑑賞することもできます。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)

 






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