ぼんおどり「盆踊(秋)生活」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




盆踊りを睨むヤンキー   又吉直樹「蕎麦湯が来ない(2020)マガジンハウス」

「カキフライが無いなら来なかった」「まさかジープで来るとは」に続くシリーズ第三作です。有季定型ではなく自由律の句集。自由律とは、季語の有無や五七五にとらわれない作品のこと。尾崎放哉や種田山頭火が著名です。作者は、この分野の作品を多数発表しており、令和の自由律俳人と呼んでもいいのかも知れません。

とはいえ、小稿はキゴサーチ。季語が無い句を取り上げることはできません。そこで、自由律でありながらたまたま季語が入っているものに注目することにしました。掲句の季語は盆踊り。れっきとした秋の季語です。「本来先祖の供養のためのものであったものが娯楽になり、浴衣がけの男女が音頭にあわせて夜の更けるのを忘れて踊るようになった」と歳時記に記されています。

さて掲句。「睨む」が絶妙です。何故、睨んでいるのか。本当は踊りたいのです。でも、つっぱってこそのヤンキー。近所のおばちゃんと一緒に踊るなど沽券に関わるのです。なんともゆるい歌声と、揃わない振りの踊りを前に睨むしかない。そりを入れたリーゼントの髪型も、剃られた眉も、一見いかめしく怖そうに見えますが、表情はまだ子ども。ああ、俺も踊りたい。でもそれはできねえ。その葛藤が「睨む」の一語に凝縮された一句。見事な出来栄えです。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)

 






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