つき「月(秋)天文」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




つぶあん派こしあん派ゐて月を待つ  金子敦「音符(2017)ふらんす堂」

お月見の一コマでしょうか。月の出を待っているのですが、手持ち無沙汰です。酒には早いし、俳句は月を見てから作りたい。仕方なく、とりとめのない話題で盛り上がります。そこで、つぶあんこしあん論争。私はエレガントなこしあん派ですが、ワイルドなつぶあん派もいて、なかなか手強い。互いに自説を譲らないので決着がつきません。あ、そんなことに夢中になっていたら月がもう昇っちゃった、なんてこともありそうです。

こうなったのは目の前に月見団子があったせいでしょう。遠くの月と近くの団子。大きな月と小さな団子。対照が鮮やかです。団子と言わないで、感じさせるところが技。うまいです。うまいだけでなく美味しいです。

ところで私には、こしあんつぶあん論争の思い出があります。2001年に四国の松山市に転勤となり、そこで若者向けの情報番組を担当したときのことです。番組名は「てれごじ」。テレビで夕方5時だからてれごじです。

そのコメンテーターに松山出身の評論家・天野祐吉さんをお願いしたのです。テーマは「ボクサーかブリーフか」。何のことかお分かりですよね。男性の下着です。ここでもボクサー派とブリーフ派がいて、松山の社会を二分していました(嘘)。一触即発。あわや取っ組み合いが始まるかというその時。仲裁に入った天野氏がこう宣言したのです。「ボクサーはこしあん。ブリーフはつぶあん」。ボクサーは中身の形を伺わせない。原型をとどめないからつぶあん。ブリーフはうっすらと中身のかたちを思わせるから、つぶあん。さすがです。論壇で長らく活躍してきた天野さんならではの名言。それを聞いた両派、なんとなくヘナヘナっとなって争いをやめてしまいました。松山に平和がよみがえった。というか、どうでも良くなった。

この「こしあんつぶあん」問題は、その後も形を変えて甦ります。アジフライにかけるのは「ソースか醤油か」問題や、カレーライスを食べる時にご飯とルーを「混ぜる混ぜない」問題など。様々なバリエーションを作りながら今日に至ります。やれやれ、またお月見から脱線してしまいました。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)

 






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