血族の村しづかなり花胡瓜 篠崎央子「火の貌(2020)ふらんす堂」
夏に花を咲かせる胡瓜。調べてみると雄花と雌花がありどちらも黄色。普通の野菜なら雄花の花粉が雌花に受粉して実を結びます。ところが胡瓜は単為結果性(たんいけっかせい)と言って、受粉しなくても実るのだそうです。ということは雌花の方の遺伝子が代々受け継がれて行く。交雑されることなく純系が保たれてゆきます。
掲句、血族という表現に閉ざされた小さな村の人間関係を思います。古い家族の純系が保たれ、余所者は入り込めない。ちょっと怖いようなしづけさが村を支配しています。黄色の鮮やかな花が印象的な一句ですが、長い長い時間の澱のようなものも感じられてなりません。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」