瞳孔を若竹の日の通りゆく 藤井あかり「封緘(2015)文學の森」
作者は塩谷亮という画家の作品の大ファンだと伺いました。彼はかたちの写生を通して心まで写してしまう写実画家。作者が追求する「心の写生」を絵の世界で実践しています。例えば「遠い空」という作品。結婚当時の奥様が描かれています。「これから生涯を共にする人に今見つめられ、描かれている」ことのの緊張や高揚。それらが凛とした眼差しや伸びた背筋、潔い白い衣装を通して描かれます。精密でありながら情感のこもった作品。まさに「心の写生」です。
よく写真のような絵と言いますが、写真と絵画は違います。写真のレンズは単眼ですが、絵画は二つの目で描かれます。脳が感じた立体感が平面のカンバスに置き換えられる。ですから、よくできた写実絵画には現実の世界よりも奥行きを感じます。
さて掲句。写実絵画のファンだけあって絵画を言葉にしたような細密さ。仮にこの句を絵画にしたらどんな構図になるのか。想像してみました。若竹に囲まれた家。窓を向いた女性。日が顔にあたっています。瞳が輝いていて、そこに若竹が映っているのかも知れません。全身、顔、瞳孔、さらに瞳孔に写っているもの、すべてに焦点があっているような味わいの一句です。瞳ではなく瞳孔とい言葉を用いているのもポイントの一つ。医学用語なのでより透徹したイメージになります。現実にはありえない超精彩写実絵画の世界です。
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(夏)
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」