れいぞうこ「冷蔵庫(夏)生活」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




冷蔵庫の音か夜明けの来る音か  星野高士「残響(2014)深夜叢書社」

作者は、冷蔵庫のそばで夜明けを迎えています。大抵の家では冷蔵庫は台所に置かれていて寝室とは離れています。となれば自宅ではなくてホテル。旅先の光景ではないでしょうか。枕が変わると眠れなくなることがあります。輾転反側していると、僅かな音が気になります。普段は気にならない冷蔵庫のブーンという音が、こんな時には耳について仕方ありません。明日は早いのだから眠らなければ。そう思えば思うほど、目が冴えてしまいます。気がつけば窓の外が少し明るくなってきたようです。この音は冷蔵庫の音とばかり思っていたけれど夜明けの来る音だったのかも知れない。そう思ったら何故か気持ちが落ち着いて、眠れそうな気がしてきました。

ちなみに、冷蔵庫という季語はもともと氷を入れて使うものをさしました。私の子ども時代、うちにもあって氷屋さんが毎日一貫目の氷を配達してくれました。氷で冷やすのですから氷点下にはなりません。アイスキャンディーは作ることも保存することも出来ませんでした。のちに電気冷蔵庫が我が家にやってきた時、私が最初にしたこと。それは「ワタナベのジュースの素」を水に溶いて冷蔵庫に入れ、アイスキャンディーを作ることでした。さて歳時記には「現在は電気冷蔵庫が四季を通じて使われるが、かつては氷を入れた冷蔵庫が使われた。冷たいものが夏に特に好まれることから夏の季語となった」と記されています。氷を使う冷蔵庫、現在でも高級なお寿司屋さんなどで使われているとか。ネタが乾燥せず、冷えすぎないところが良いのだそうです。

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(夏)

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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