かやりび「蚊遣火(夏)生活」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




蚊遣火の赤き一点とは恋か   蜂谷一人「青でなくブルー(2016)」

蚊遣火とは蚊取り線香のこと。火をつけると、小さな炎が螺旋の中心へゆっくり動いて行きます。埋み火のような色が、消灯した寝室で妖しく光ります。激しく燃え上がるのではなく、秘めた想いのように抱き続ける熱さ。眠れない夜は、ついそこに目が行きます。ふと禁じられた恋に似ていると思い当たりました。人に言えないから燻り続けます。一旦点火された激情は消えることがありません。ぐるぐると頭を巡り、叶うわけでも諦めるわけでもなく、最後の一点へと向かってゆきます。そして、すべてを灰にしてしまいます。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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