おやこ 親子【ワンランク上の俳句百科 新ハイクロペディア/蜂谷一人】




俳句で親子の情愛を詠むのは意外に難しいこと。観念的になりがちで、気をつけないと標語や処世訓のようになってしまう。それを避けるためには、類句にない切り口や情景を見出す必要があります。

二十年(はたとせ)をはしよるはなしや桐の花  恩田侑布子

親子を示す言葉を用いていないところがすごい。でも親子、多分母娘だとわかります。 なぜなら季語が桐の花だから。昔は女の子が生まれると、庭に桐を植える風習があったそうです。大切に育て、お嫁入りするときに切り倒して箪笥を作り、嫁入り道具にするのです。桐を庭に植えて二十年。あっという間だったね、などと言い交わしているのでしょうか。

「はしよるはなし」と、「は」の音と「し」の音が重なって少々つっかえるようなリズム。親と子の途切れがちな会話にしみじみとさせられます。

桐は五月上旬、筒状の淡い紫色の花をつけます。この時期、山を旅すると新緑の間に夢見るような、思い出を懐かしむような薄紫が覗きます。中国では鳳凰のとまる木とされた桐。美しく気品を感じる花なのです。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

 

 

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