はるゆく「春行く(春)時候」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】

春逝くやとりもけものもさぶしかろ 瀬戸内寂聴「ひとり(2017)深夜叢書」

第六回星野立子賞を受賞した句集。当時95歳の寂聴さんの初句集ということで大きな注目を集めました。何故小説ではなく俳句だったのでしょうか。あとがきにはこう記されています。「死ぬときはペンを握って机にうっ伏したまま、死にたいと思った。それには自分の余命を愉しくしなければ・・・その愉しみは何があるだろうと思いめぐらす頭の中に、突如、「句集」という字が浮かんだ」。

しかし、寂聴さんは小説家。額面通りに信じるわけにはいきません。実は二十年以上にわたって東京女子大の後輩である黒田杏子さんに俳句の指導を受け、月に一回寂庵で句会を催していたのです。ですから、心のどこかに句集を編むということがあったのではないか、私はそう考えています。

僧でもある寂聴さんは、一遍上人の言葉が好きだと言います。

生ぜしもひとりなり
死するもひとりなり
されば人とともに住すれども
ひとりなり
添いはつべき人
なきゆえなり

句集のタイトルはここから付けられています。掲句は、まさにこの言葉の通りひとりで生まれ、ひとりで死んでゆかなければならない人間の定めを詠んだもの。「さぶしかろ」に想いが宿ります。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html



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