燕来る隣の駅が見える駅 塩見恵介「隣の駅が見える駅(2021)朔出版」
出版されたばかりの句集を送っていただきました。句集のタイトルになった掲句。燕は夏鳥として飛来する鳥です。「空中をひるがえり、地上すれすれに飛ぶ姿は鮮やかである」と歳時記に。その姿は爽快で、見るものをちょっと幸せにしてくれます。通勤の現場なのでしょうか。駅のプラットフォームで電車を待つ作者。その視線は上を、燕の空を向いています。
隣の駅が見える駅とは、都会の中の通勤線。電車は混み合い、車窓はいつもの風景ですが、それが嫌でもない。大冒険に乗り出すわけではないけれど、毎日の生活の中に小さな喜びがあるのです。やって来る電車とやって来る燕。待つことの嬉しさが、読者にも伝わります。さて作者は後書きにこう記しています。
「本年50歳となる。俳句のモチーフも自分の内面への関心から、他者、とりわけ身近な隣人への関心が強くなっている。隣が何を話しているか、読んでいるか。それを見知って「いいなあ、それ!」と思う自分がいる。句集のタイトルは「隣の駅が見える駅」とした。神戸の阪神電車にはこのような駅があって、いつも私は隣の駅を見て電車を待っている。」
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」