バレンタインデー止り木に誰も居ず 星野高士「残響(2014)深夜叢書社」
もちろんご存知ですよね。二月十四日。歳時記には「ローマの司祭聖バレンタインが殉教した日。ローマ神話と結びつき、恋人同士が贈り物を交わす日となった。日本では女性が男性に愛を告白できる日として、チョコレートを贈ったりするようになった」とあります。バーに行ってみたら誰も居なかった。待ち合わせの相手に振られたのか。それとも早く着きすぎたのか。到着が遅れてみんなが行ってしまったあとなのか。さまざまな鑑賞が可能です。「居ず」という否定形が、居た(かもしれない)人を暗示しながら空っぽの空間を見せてくれます。「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮 藤原定家」と同じ構造ですね。華やかな花や紅葉の幻影を見せながら、それを消してしまう。一度見てしまっただけに、一層寂しい気分になります。止り木という舞台装置が内容にぴったり。バーの椅子のことですが、鳥たちのとまる枝とも読めます。鳥たちは西洋では愛の象徴。ラブバードと言えばインコのことです。社会性が高く情愛深いコザクラインコ、ボタンインコなど9種類がこう呼ばれます。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」