どろめ「泥目(春)」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




どろめ食ぶ土佐の霞の如きなり   中西夕紀「くれなゐ(2020)本阿弥書店」

どろめは高知の方言でいわしの稚魚のこと。いわゆる生しらす。日本酒にあうので春になると土佐の居酒屋に並びます。四月には高知県香南市で「どろめ祭り」が開催されます。どろめの豊漁と漁の安全を祈って大杯にそそがれた日本酒を一気飲みするお祭りです。男性なら一升(1.8リットル)、女性は5合(0.9リットル)を飲み干す速さを競います。ある年の優勝記録は男性で14秒13。女性は8秒66。良い子の皆さんは、危険ですから絶対に真似をしないでください。

高知に5年勤務した経験のある私。はじめはびっくりしたものの、何年かたつうちにどろめへの愛と酒への情熱に畏敬の念を抱くようになりました。

さて、掲句。鉢の底に沈むどろめは、まさに霞のような色と質感。土佐は坂本龍馬や中岡慎太郎を輩出した土地柄。明治維新を先導しながら志半ばで倒れた男たち。その見果てぬ夢を、どろめと共に噛み締めるのが土佐の人々の酒の作法なのです。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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