揚花火明日に明日ある如く 阪西敦子「天の川銀河発電所(2017)左右社」
アンソロジー句集からの一句です。季語は揚花火。歳時記には「初期俳諧では花火は盆行事の一環と考えられ、秋の季語であったが、納涼が中心となった現代では夏の季語に分類している」と記されています。迎え火から納涼へ。時代の変遷を伺わせる季語です。さて掲句。「あげはなび、あした、あした、あるごとく」とあの音が四回も繰り返されてリズムを紡いでいます。このリズムが次々に打ち上げられる花火を思わせて実に心地よい。シュルシュルと上がって大輪の花を咲かせる花火。一つが散るとすぐに次のものが揚がります。花火の次は花火。今日の次は明日。花火と明日が絶妙な取り合わせとなっています。思いつきそうで、思いつかない比喩。言葉に無理がなく、描かれている景が明瞭で美しい。かといって古くからの美意識にとらわれている訳でもない。新しい時代の伝統俳句と呼びたい掲句です。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」