あかつかふじおき「赤塚不二夫忌(夏)行事」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




赤塚不二夫忌おほぜいのゐる木の向かう 堀下翔「「天の川銀河発電所(2017)左右社」

「天の川銀河発電所」は1968年以降生まれの作家たちの作品を集めたアンソロジー句集。俳人の佐藤文香さんの編著です。句集を目にする機会の少ない若い作家たちの近作に触れることのできる貴重な作品集。

さて赤塚不二夫忌は8月2日。「天才バカボン」「おそ松くん」「もーれつア太郎」などの漫画を生み出した赤塚不二夫の命日です。この句集の座談会で小川軽舟さんが述べています。「この句、私の世代だとものすごく共感できるんです。物心がついたときにはテレビでおそ松くんをやっていて、私も含めた当時の子供たちはみんな、カメラを向けられるとシェーってやってたんです。私たちが生きていた時代そのものが、この句の木のむこうにあるような感じがして」と。おっしゃる通り。シェーは今でもテレビCMに登場しますからご存知の方も多いでしょう。自分のことをミーと言い、おフランス帰りを自称するイヤミの放つギャグは日本中の子どもたちの心を捉えました。

テレビアニメの第一シリーズが放送されたのは1966年から67年。1年余りの間に56話が制作されました。1966年の出来事を挙げてみると、「ウルトラQ」の放送。「サッポロ一番しょうゆ味」の発売。全日空機が東京湾に墜落。日本の総人口一億人突破。日本初のコインランドリー開店。三里塚闘争。ビートルズ来日。巨人V2。「日曜洋画劇場」放送開始。電子レンジの発売。などなど。このラインナップを見てあなたは何を感じますか。

いいことも悪いこともありましたが、暑苦しいまでに人と人の距離が近かった時代。だからこそ、おそ松君が時代の象徴となったのでしょう。だって六つ子ですよ、六つ子。寝るときは一間に六人が重なり合っていました。少子高齢化、ソーシャルディスタンスが当たり前となった今と比較すると、時代の特徴がはっきりと浮かび上がります。「おほぜいのゐる」と詠った掲句。1995年生まれの作者が時代の気分を捉えていることに驚かされます。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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