こおり「氷(冬)地理」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




氷の下の川が黒い  せきしろ「蕎麦湯が来ない(2020)マガジンハウス」

「蕎麦湯が来ない」は、せきしろさんと又吉直樹さんの共著。自由律句と文章が散りばめられています。自由律ですから、季語がなくてもOK。定型を守らなくてもOK。なのですが、小稿はキゴサーチ。無理矢理季語らしいものを見つけて論評してしまおうという野暮な試みです。

さて掲句。工場街を流れる川でしょうか。真っ黒に澱んでいます。しかも一面氷に覆われている。寒いのです。暗いのです。氷の下でさえ黒ずんで見えるのですから、実際の水は哀しいほどに真っ黒なのでしょう。

川を見るとき、人は心に清々しいものを抱きます。鴨長明さんのように、過ぎ去ってゆく水に無常感を覚える人もいるでしょう。でも、この句で感じるのは閉じこめられた水の重苦しさと息苦しさ。汚れた水がやるせないのです。で、はじめはそうなのですが、何度か読んでいるうちに何故かじんわりしてきます。いのちの水を汚しても、ものを作り生きていかなければならない労働の過酷さを感じるからです。川を詠んだ句でありながら、生きることのかなしみに想いの至る作品。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(冬)

 






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