今日あたり出てゐるはずの社会鍋 片山由美子「飛英(2019)角川書店」
社会鍋は「年の暮に、キリスト教の一派の救世軍が行う募金運動。街角に鍋を吊し、その中に集まった献金で慈善事業を行う」こと。東京では神保町に救世軍の本部があり、その建物の前で喇叭を吹きながら募金を募ります。年末の風物詩ではありますが、カレンダーに記されている訳ではありません。今日から始まる、と厳密に言い切れないので「今日あたり」「出てゐるはず」という表現になっています。このあたりの用法が非常に緻密で揺るがない。誤りがなく、かといってくどくもない。それが片山さんの俳句の特徴です。この句の面白さは社会鍋の本質を示している点でしょう。どこの町にでもあるわけではない。時期も年末頃とあいまい。しかし、知らない人はいないし、たまたま出会えば募金をしたりもする。同時期のクリスマスと比較すれば違いが明らかでしょう。クリスマスは、12月25日と決まっていて、どこの町でも祝うもの。ね?掲句の表現、社会鍋ならではと思いませんか。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(冬)