ふゆこだち「冬木立(ふゆ)植物」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




パイプオルガン冬の木立のやうに  浦川聡子「眠れる木(2012)深夜叢書社」

パイプオルガンは一番大きな楽器。立ち並ぶパイプは大きなもので10メートル。小さなものは数センチで、あるホールのものは実に3922本ものパイプを備えているとか。見えているのはごく一部で、その何倍ものパイプが舞台裏に隠されているのです。そんなに沢山必要なのは、音程だけでなく音色ごとに一本が割りあてられているから。フルート、トランペットなど音色が増えるごとにパイプが増えてゆく仕組みです。

さて掲句。4000本近い金属のパイプが立ち並ぶ様はまさに冬木立。葉を落とした木々が真っ直ぐに天を差している光景が頭に浮かびます。さらに、その音は風雪を経た大木のように屹立します。楽器の音には水平に歩行するものと、垂直に立ち昇るものがある、と言ったのは作曲家の武満徹でした。そのひそみに倣えばパイプオルガンの音は垂直に上昇。もともと教会音楽のために作られ、地上の祈りを天に届ける役割を担ってきた楽器です。この句を読むとバッハのトッカータが頭に鳴り響きます。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(冬)






おすすめの記事