もち「餠(冬)生活」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】

死者二万餠は焼かれて膨れ出す   高野ムツオ「片羽(2016)邑書林」

高野さんは3.11をテーマにした前作「萬の翅」で読売文学賞、蛇笏賞、小野市詩歌文学賞を受賞。続く「片翅」でも東日本大震災の句を多く詠んでいます。死者二万は震災で亡くなった方、行方不明になった方の数。震災関連死を含めると12都道府県で2万2000もの命が奪われました。あの日、宮城県にお住いの作者の自宅の近くまで水が押し寄せ、親しい方が亡くなったそうです。

そもそも鏡餠は魂をかたどってあのかたちになったと聞いたことがあります。白くて丸く、ぷっくりとした鏡餠。魂と言われれば確かにそう見えてきます。掲句、膨れ出す餠が亡くなった方々の魂だとすれば、行く場所を失った魂が口を開いて何かを訴えているのでしょう。震災からもう10年がたってしまいました。俳句に詠むことで記憶の風化を防ぎ、鎮魂の思いを読者に引き継いでゆく。俳句にはそんな役割もあるのだと教えられました。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

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