やりょう「夜涼(夏)時候」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




夜涼なり星をつまんで花びらに  佐怒賀正美「無二(2018)ふらんす堂」

夜涼は、夏の暑さの中にあってこそ感じられる夜の涼気のこと。星をつまんで花びらに、とは何とも豪快。まるで神の手のようです。神話を思わせますが、前書きに「中島弘幸さん(マジシャン)」とありました。となればマジックショーの一場面。手品師の白い手袋がさっと動くと、きらきらした星屑が花びらに変わる。客席からは大きな拍手が起こったことでしょう。

作者は後書きにこう記しています。「2015年と2018年の二度、それぞれ三週間ほどの海外クルーズに参加できた。俳句教室の講師として貴重な体験であった。この二つの長旅の収穫は、言葉では言い尽くせないほど大きい。未知の世界の見聞はもちろんのこと、異なる専門分野の講師や演奏家、演芸家たちとの交流の中から見出した自由。さらにはまわりに何もない大海で得た思索と句作のゆったりとした時間の深さ。それまでよりも一回り大きな時空の中に自分自身を置いて考えるようになった」

なるほどクルーズ船での一場面だったのですね。島ひとつ見えない大洋の真ん中。ステージでは星が花に変わり、外では本物の星が降るような夜空。船の航跡を示す白い波が、銀漢まで続いています。

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(夏)

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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