生きてゐるサイダー死んでゐるサイダー 小池康生「奎星(2020)飯塚書店」
サイダーに生死があるなんて思いもしませんでした。でも言われてみると容易に想像できます。元気よく泡立っているのが生きているサイダー。泡が消えて生ぬるくなっているのが死んでゐるサイダー。
死んでいるサイダーなんて飲みたくありません。でも味を思い出すということは経験があるから。話がはずまなくて黙り込んでいるうちに、泡の消えたサイダーを一口飲んでしまったことがあるから。
まずいのは気まずいからです。いいえ洒落ではなく、ものの味には気分が影響します。にぎやかで楽しい集りなら、生ぬるいサイダーでも美味。死んだサイダーには、失敗だったデートの思い出が重なります。
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(夏)
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」