
夏の季語。初夏の闇夜に光を放ちながら飛ぶ蛍は美しいばかりでなく、神秘的でさえあります。
ゆるやかに着てひとと遭ふ蛍の夜 桂信子
蛍火や手首細しと掴まれし 正木ゆう子
恋の句として詠まれることが多い蛍。それには理由があります。
物おもへば沢の蛍も我が身よりあくがれいづる魂かとぞみる 和泉式部
平安時代の歌人、和泉式部の歌です。「あくがる」とは魂が肉体からさまよい出るさま。「恋をすれば魂が蛍となって身体から飛び立っていくようだ」というのです。何と激しい恋の歌なのでしょうか。この歌が人気を博したために、後世 蛍が恋の象徴として詠まれるようになったのです。現代の俳人と千年も昔の歌人。二人は蛍という季語を通じて結ばれていました。俳句の楽しさは、時空を越えたつながりに気づくことでもあります。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html