俳句の世界には生憎と退屈がないといわれます。出かけていて雨が降れば、雨を詠む。雪が降れば雪を詠む。折角のお花見に花が散ってしまっていたら落花を詠む。これが俳人です。普段とは違う景色を楽しみます。自分だけの景色を詠めるのでむしろ好都合です。
また、打ち合わせが早く終わってしまい、次の仕事まで30分あるような場合。中途半端に時間が余ってしまったら、そこでも一句。退屈している暇はありません。俳句は名所旧跡に出かけて詠むだけのものではありません。通りには南風が吹き、自宅の前にもやまぼうしが咲いています。台所には、鰹や玉ねぎや梅干が並んでいます。これらはすべて季語。特別の場所に出かけなくても、あなたがいる場所が季語の現場です。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」