蜃気楼までを滑空湖の鳶 ふけとしこ「眠たい羊(2019)ふらんす堂」
蜃気楼とは密度の異なる大気の中で光が屈折し、地上や水上の物体が浮き上がって見えたり、逆さまに見えたりする現象。中国の歴史書「史記」天完書に「蜃(大蛤)の気によって楼(高い建物)が形作られる」という記述があり、蜃気楼と呼ばれるようになりました。
良く晴れた日、風のない湖の上を鳶が舞っています。上昇気流に乗って羽ばたくこともなく、グライダーのように空を滑って行きます。蜃気楼に向かって行きます。空も湖も滑らか、飛行も滑らか。不思議な風景でありながら、暖かい空気に包まれたような気持ちになる句です。それにしても、蜃気楼に入った鳶はどうなったのでしょう。異次元にワープしてしまったのではないでしょうか。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」