俳句で忌み嫌われるのが理屈です。日常生活でも理屈っぽい人は敬遠されがちですが、俳句でも同じ。俳句でいう「理屈」とは因果関係のこと。例えば窓を開けて紅葉を見た、という類です。間違ってはいませんが、詩のことばとしては平凡。
障子しめて四方の紅葉を感じをり 星野立子
この句のように 障子を閉めたら紅葉の気配を感じた、と理屈を無視したほうが俳句としては上質です。古来日本では最上の褒め言葉は「涼し」でした。蒸し暑くうだるような季節に涼しさは大変有難いもの。涼しいという意味だけではなく上品であるという意味にも使われます。兼好法師も徒然草に「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑きころわろき住居は、堪へ難き事なり〔55段〕」と記しています。家は夏を過ごしやすいのがよい。冬はどんなところでも住める。暑い時期に駄目な住居はたえがたい、という意味。家に限らず俳句でも暑苦しいのは避けたいもの。その典型が理屈。
さて先日の句会で、こんな句が出ました。
片足のはみ出す寝相春めきぬ 福花
沢山の点が入ったのですが惜しい部分があります。どこなのか、内容を確認してみましょう。春らしくなってきて、あたたかくなったので足がはみ出した、と読めますよね。寝相と春めきぬの間に因果関係があります。つまり、これが理屈。こんな時には因果関係のない別の季語を置くとうまくゆきます。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」