あともどりして春水に映る空 岩田由美「雲なつかし(2017)ふらんす堂」
行き過ぎてから、春水に映る空の明るさに気づいたのです。冬の間の鉛色の空はいつの間にか消えて、今は目に染みるようなブルーの空が映っています。わざわざ、引き返してよかった。こんなに青い空を見るのは久しぶりだ。作者はそう思ったのでしょう。この句はある句を下敷きにしているように見えます。
昃(ひかげ)れば春水の心あともどり 星野立子
繊細な句です。先ほどの句とは違って、春水に映る空に影がさします。明るく前向きな気持ちが少し萎えてきます。光はそれほどまでに、人の心を揺さぶるのだと気づかされます。岩田さんの句が立子へのオマージュだとすれば、二句一緒に味わうのも素敵だと思います。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」