ふゆぎく「冬菊(冬)植物」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




冬菊に冬菊を足す別れかな  山田露結「俳コレ(2011)邑書林」

葬送の場面でしょうか。最後の別れの時、参列者が一人ずつ棺に白い菊を入れてゆきます。足すという言葉が秀逸。少しずつ増えてゆく菊が、やがて棺を真っ白に埋め尽くしてゆくのです。冬菊は寒さに耐えて咲く花。凛とした強さを持つ花です。故人はどんな人だったのか、何も書かれていませんが、私には美しい女性の姿が目に浮かびます。

さて葬送の菊を詠んだ作品としては、漱石の先例があります。

ある程の菊投げ入れよ棺の中  夏目漱石

こちらは早世した大塚楠緒子(1875-1910)への手向けの一句。楠緒子は明治末期に活躍した歌人、作家で、漱石が恋した女性とも言われます。一説によれば、漱石は彼女と見合いをしながら想いを果たせず、翌年東京を離れて松山中学に赴任。こちらが「ある程の、ありったけの菊を投げ入れよ」と激情を歌っているのに対し、掲句は参列者の一人として淡々と一輪を投げ入れる場面。しかし、句に詠む程の関係であれば大勢の中のひとりではなかった筈。その人へ強い思いを抱きながらもそれを隠し、表向きは一人の参列者として振る舞うしかなかった。そんな想像は深読みに過ぎるかもしれませんが。結句「別れかな」に用いられた切字のかなが、想いの深さを伝えてくれます。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(冬)

 






おすすめの記事