梨剝く手サラリーマンを続けよと 小川軽舟「朝晩(2019)ふらんす堂」 誰が梨を剝いているのでしょうか。「サラリーマンを続けよ」と言っているのですから、作者の妻。「続けよ」というさりげない命令形が、有無をいわさぬ圧力を醸し出しています。想像するに、「まだまだお金もかかるから、今仕事を辞めてもらっては困る」というところ...
俳句の作り方
俳句の作り方の記事一覧
上のとんぼ下のとんぼと入れかはる 上田信治「リボン(2017)邑書林」 いつか見た光景ですが、この句を読むまで忘れていました。そんなこともあったなあと思い出されます。あれはいつだったのでしょうか。大人になってからではなく、きっと少年の日の一コマ。学校をサボって野原に寝っ転がっていたのかも知れません。内容はシンプルですが...
ふたたびとなきあをぞらを鳥渡る 日下野由季「馥郁(2018.9.25」 同じ空はひとつとしてない。俳人の宇多喜代子さんは、よくそうおっしゃいます。地球が生まれて45億年。その間、一回も同じ空はありませんでした。雲が違います。風が違います。青さが違います。だから掲句の「ふたたびとなき」という措辞が生きてきます。そこ...
電球をきゆつきゆつ酉の市準備 吉田林檎「スカラ座(2019)ふらんす堂」 酉の市は十一月の酉の日に行われる祭礼。神社の参道にずらりと夜店が並び、煌々とあかりを灯して商います。売られるのは福を呼ぶ縁起物の熊手。ですから、酉の市と言えば熊手を詠んだ句が多いのですが、ここでは電球。いい意味で意表をついています。確かに酉の市...
唐辛子売るや辛さを詫びながら 小池康生「奎星(2020)飯塚書店」 東京の縁日では七味売りをよく見かけます。屋台では威勢が大事ですから、口上を手慣れたもの。「辛くてごめんね」などと言いながら売りたてます。その口上に乗せられて、ついつい必要ないものまで買ってしまったことはありませんか。家に帰ったら去年の七味唐辛子が、...
つぶあん派こしあん派ゐて月を待つ 金子敦「音符(2017)ふらんす堂」 お月見の一コマでしょうか。月の出を待っているのですが、手持ち無沙汰です。酒には早いし、俳句は月を見てから作りたい。仕方なく、とりとめのない話題で盛り上がります。そこで、つぶあんこしあん論争。私はエレガントなこしあん派ですが、ワイルドなつぶあん派も...
月とペンそして一羽の鸚鵡あれば 高柳克弘「寒林(2016)ふらんす堂」 月とペンは一体何を表しているのでしょうか。今回は句の解釈ではなく、私の妄想を記してみましょう。この句が謎に満ちて力強く、不思議な魅力に溢れているからです。 実はこの句に出会った時、私の頭に浮かんだのはサマセット・モームの小説「月と6ペンス」でした...
なんといふ高さを鷹の渡ること 正木ゆう子「羽羽(2016)春秋社」 この句は白樺峠と題された章に収められています。長野県松本市、奈川と乗鞍の間に位置する白樺峠。バードウオッチャーの間では、鷹の渡りが見られる場所として知られています。掲句の通り、鷹はかなりの高さを飛行しますが、白樺峠は標高1600メートル。谷間から鷹...
台風の夜の佐野洋子の絵本 藤井あかり「封緘(2015)文學の森」 固有名詞が抜群の効果をあげている作品です。佐野洋子の代表作は「百万回生きた猫」。主人公の猫は、ある時は一国の王の猫、ある時は船乗りの猫となり、サーカスの手品つかいの猫、どろぼうの猫、ひとりぼっちのお婆さんの猫、小さな女の子の猫…と100万回生まれ変わ...
鶺鴒がとぶぱつと白ぱつと白 村上鞆彦「遅日の岸(2015)ふらんす堂」 鶺鴒は長い尾を持ち、尾を上下に振って石や地面を叩くように見えるところから「石たたき」とも呼ばれる鳥。いくつかの種類に分かれますが、よく見るのはハクセキレイとセグロセキレイ。どちらも黒白のコントラストがはっきりとしていて、頬が白い方がハクセキレイ、...
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