対馬康子さんは俳句の五段飛ばしを勧めています。五段飛ばしとは推敲の際、次の五つのステージで内容を考えようというもの。
1 原句
2 表現を整える(季語+五七五)
3 設定を広げよう
4 違うものと取り合わせる
5 見えない世界へ
必ずしも五段目が一段目よりすぐれているという訳ではなく、あくまで頭の柔軟体操として俳句の可能性を広げようというもの。先日のNHK俳句では、司会の武井壮さんとゲストの上西星来さんの句を、対馬さんが五段飛ばししました。題は夏の季語「髪洗ふ」。
まず星来さんの句から。原句がこちら。
新曲のカウント数へ髪洗ふ 上西星来
星来さんは東京パフォーマンス・ドールの一員。アイドルらしく舞台稽古を題材にしました。新曲の振り付けはカウントを聴きながら練習。いつもカウントが頭の中に鳴り響いているそうです。この句は季語を備え、定型に収まっています。ある程度整った表現になっているので、まず二段目に置くことにしました。次は三段目です。
新曲のカウントとなり髪洗ふ
事実だけにとらわれず変形を楽しみます。いよいよ本番となると、体が自然に動きカウントを数える必要がありません。体にカウントがしみついた状態を「カウントとなり」と表現してみました。続いて四段目。
目覚めゆく風のカウント髪洗ふ
風のように自在に変化する振り付けを想像し表現をふくらませます。続いて五段目。
髪洗ふスーパーノヴァを響かせて
違う世界への扉を思い切り開きます。スーパーノヴァとは超新星爆発のこと。夜空に新しく星が生まれるようなエネルギーを一句に込めました。
新曲のカウント数へ髪洗ふ から 髪洗ふスーパーノヴァを響かせて へ。
作者の星来さんも驚くほどの展開です。ちなみに星来さんが一番気に入ったのは三段目だったとのこと。
さて続いて武井壮さんの句の五段飛ばし。原句がこちら。
南国の果実あまくて髪洗ふ 武井壮
各国を旅した武井さんらしい素敵な句。このままでもよさそうですが、今回は勉強のため五段飛ばしします。まず二段目に置き、三段目を作ってみます。
南溟の甘き果実よ髪洗ふ
南溟とは南方の海のこと。青い熱帯の海の景色が目に飛び込んできました。続いて四段目。
香木の指さき甘く髪洗ふ
香り高い果実を、香木に置き変えてみました。瞑想や祈りの場でも用いられる香木。一気に精神性の高い句へと昇華しました。続いて五段目。
洗髪(あらいがみ)四海へ種のこぼれけり
甘い果実から、それを実らせる種へ発想を飛ばしました。四海とは世界のこと。洗い髪から世界へ豊穣の種がこぼれるイメージです。
いかがですか。普段私たちは、現実の世界に縛られてなかなか発想を飛ばせないもの。俳句の世界ではこのくらい自由に遊んでみるのもよいのではないでしょうか。