どじょうなべ「泥鰌鍋(夏)生活」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




このへんの会社の人が泥鰌鍋  岸本尚毅「小(2014)角川学芸出版」

大抵の鍋は冬の季語ですが、泥鰌鍋は夏。かつては、身近で精のつく食べ物の代表だったそうです。何種類かあり「まる」は骨が柔らかくなるまで下ゆでしたドジョウを丸ごと使ったもの。「ほねぬき」は頭と骨を取って開いた生のドジョウを使用。卵とじにしたものが「柳川」です。

「まる」を注文すると、ささがきの牛蒡などと一緒に泥鰌が鍋に盛られて運ばれます。テーブルに備え付きのガスコンロで調理するスタイルで、鍋も熱いがコンロの火も熱い。暑い時期に熱い食べ物で暑気払いするあたり、江戸っ子の痩せ我慢と心意気を感じます。

さて掲句は浅草あたりの光景でしょうか。このへんの会社という措辞が妙にリアル。仕事帰りに数人で泥鰌鍋を囲んでいるのでしょう。不思議なもので会社の付き合いというのは、ひと目でわかります。年齢の違うおじさんが数人。上着を脱いでネクタイを外しています。偉そうな年配の人がいて、残りの人はそのご高説を拝聴しています。数千万円とか、数億とか、普段耳にしない高額が話題になっていたりもします。聞き耳を立てなくても、大声なので聞こえてしまいます。どうやら守秘義務とかコンプライアンスとかいう言葉は、死語になっているようです。暑苦しい人たちが、熱々の鍋をつついている光景。ですが、そこそこ楽しそうであり、夏を乗り切る力強さも感じられるのです。

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(夏)

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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