直喩と暗喩のふたつの形式があります。直喩は「○○のごとく」「○○のやうな」。暗喩は「ごとく」や「やうな」を使わない比喩のことです。写生を直球とすれば比喩は変化球。切れ味がよくないと簡単に打たれてしまいます。しかし勝負どころでは、打者のを鋭くえぐるシュートや、目の前で消えるフォークボールも必要です。
ところで、比喩の中にはやってはいけないものが一つあります。それは、季語を比喩に用いること。「林檎のやうな頬」の類です。季語は目の前にあることが前提。比喩に用いると絵空事になってしまい季語として認められなくなります。
わかっていただいたところで次の句はいかがでしょう。
菫程な小さき人に生れたし 夏目漱石
漱石の代表句です。すみれのような小さなひとに生まれたい、という意味ですから、季語を比喩に使っています。さあ、困りました。困ることはないか。読者を納得させることが出来れば、季語を比喩に使っても可。何にでも例外はあるものです。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」