かなぶんのまこと愛車にしたき色 中西夕紀「くれなゐ(2020)本阿弥書店」
かなぶんは金亀子(こがねむし)のこと。こつんとぶつかる重さや硬さは詠まれても、意外に色は詠まれていなかったように思います。しかし、あの色を何と表現すればいいのか。金色のようでもあり、緑でもあり。光線によって色味を変えるメタリック塗装のような色彩。掲句はそれを「愛車にしたき色」と見事に言い留めてくれました。喉まで出かかっていた名前がするっと出てきたような心地よさです。
こうした時、私なら「メタリック塗装」という言葉をベタに使ってしまいそう。しかし作者はそうしませんでした。メタリック塗装は車を思わせますが、客観的で冷たい感じにもなります。愛車という言葉のお陰で、「愛着」「相棒」などと言った主観的な部分に連想が広がります。取りも直さず、それは作者がかなぶんに寄せる思いなのでしょう。小さな昆虫に寄せる眼差しが暖かい。もう一言いえば、金亀子ではなく「かなぶん」という言い方も考え抜かれたもの。子ども時代の体験を思い起こさせます。あの懐かしい黄金の時代へ、一瞬にして読者を連れて行ってくれる魔法の言葉です。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」