せんく・選句【超初心者向け俳句百科ハイクロペディア/蜂谷一人】




実作と選句は俳句の両輪だと言われます。実作の腕が上がれば選句が上手になります。選句が上手になれば作るほうも巧くなります。私はこの関係を、野球の打撃と守備になぞらえています。実作は打撃。選句は守備。打撃はスランプがありますが、守備にはありません。誰にも俳句が作れなくなる苦しい時期がありますが、そんな時にも誠実に選句をしたり丁寧に鑑賞することは出来ます。たとえ句会で一句も自作を取ってもらえなくても、うまく選句できた日は少し心が晴れるものです。

ところで岸本尚毅さんは「鑑賞力の限界が選句の限界であってはならない」と言っています。どういう意味でしょうか?選句すれば選んだ理由を句会で述べなければなりません。ところが、好きだけれどもはっきりと理由が述べられないことがしばしばあります。そこで無難に理由を言えそうな句だけを選びがちです。

しかし、理由をはっきり言えない句こそ、本当に優れた句かもしれません。あなたが、ダリの絵を好きだとしてその理由を言葉にできますか?言葉にできなくてもダリが好きだという事実は変わりません。理由が言えなくても、好きだという事実にこそ向かい合うべきなのです。理由を言葉にしようとする過程で、あなたの俳句観がとぎすまされてゆきます。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






おすすめの記事