海を見ながら春日傘回すくせ す郎
いつぞやの句会に出た句です。男性には人気だったのですが、女性には意外なほど不人気。わけを尋ねると「だって、日傘を回したりしないもん」という答えが返ってきました。可愛い女を演じてほしい男性と、拒絶する女性の違いがはっきり表れたと言えそうです。とはいえ、本稿の主題はそこではありません。句の末尾を変えることによって、様々なニュアンスを表現できることを実証してみたいと思います。もしかしたら女性たちに評判のよい一句に生まれ変わるかもしれませんからね。
海を見ながら春日傘回すらし
「らし」であれば伝聞。あのひと、そうは見えないけれど、日傘を回したりもするんだ、と口さがない噂の一句となります。
海を見ながら春日傘回すまじ
「まじ」であれば、するもんか、という意味。日傘を回してなんかやるもんか。男の願望を知りつつ、回さないぞ、という女性の複雑な心理が浮かび上がります。
海を見ながら春日傘回しさう
「しさう」だと、興が乗って回してしまいそうだ、という意味に。一緒にいる男性を憎からず思っているせいか、日傘を回しそうになる。でも内心を見透かされそうだから、それはしないでおこう。そんな可愛い本音が見えてきます。語尾を少し変えただけで、可愛い女になったり、鉄の女になったり。あなたならどの語尾を選びますか。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」