歩をゆるめ時をゆるめて花の下 長嶺千晶「雁の雫(2015)文學の森」
桜の下をゆっくりと歩きます。じっくりと花を見ていたいから。時がゆっくりと過ぎるように感じます。歩をゆるめ、時をゆるめ、という対句表現が目を引く一句です。
いえ、そうではないのではないか、突然気づきました。満開の桜の下では、本当に時間がゆっくりと進むのかもしれません。光に満ちた花の盛り。この一瞬を心ゆくまで味わいたいと願えば、ひとときは引き伸ばされて永遠となる。あなたは、そんな経験をしたことはありませんか。
この作者の句の多くは、象徴性を内包しています。目に見える実体以上の意味を纏っているのです。掲句の「花」はまさに実体を越えた永遠なるものの象徴。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」